どうして追いかけてくるのだろう?逃げても逃げても追いかけてくる追っ手に、永は苛立ちよりも、 悲しみを覚えていた。
 人の心を読んだり、手を触れていないのに物を持ち上げたりする力を人は「超能力」と呼ぶ。永がいたところは、遺伝子操作によって超能力を持たされた子供達を収容する施設だった。そこでは、能力によってクラス分けをされ、その能力を更に引き出させることを強いられた。片手では溢れてしまうくらいの薬を飲まされ続けながら。
 永の持っている能力は、「爆破」だった。
 有機物でも、無機物でも、永が念じたものは全て爆発してしまう。はっきり言って害にしかならない能力だ。
 しかし。施設の研究者達はそう思わなかった。
 その能力を、兵器として使うことを考えたのだ。永を戦地に送り込むことで、少ない味方で 多くの敵を殺傷するようにと。
 15歳か……否、まだ14歳だったかもしれない。何もわからない永は、突然内紛の激化した国の「敵地」と研究者が呼んだ場所へ連れていかれた。施設は、内紛を起こした国とは何ら関係ない。 おそらくどちらかに、人間兵器として永を売ったのだろう。

「死にたくなければ殺せ」

 そう告げ、永を残して去ったのだった。
 人を殺すのは嫌だった。けれど、自分の中の「何か」が生きることに固執した。嫌だと思いながら、 苦しみながら、結局……何百、何千もの人間を殺した。施設に再び収容されたが、永はどれだけ 水で洗い流しても……洗剤を1瓶使っても、自分が血塗れに見えた。
 もう嫌だから。こんな力を人を殺すために使うことなんて嫌だったから。だから逃げた。放っておいてくれればいいのに、施設の者は追いかけてきた。何人も、何人も。1カ月経っても、追っ手の手は緩まない。
 逃げた時のままの服……薄いパジャマは破れ、血が付き、泥だらけ。裸足の足は皮が剥け、 血が滲む。施設に帰れば新しい服をくれるだろう。足を治療してくれるだろう。けれど…戻ろうだなんて 思うわけがなかった。



「あ……っ!」

 行き止まりだ。永は顔を引きつらせ、壁を背にして立ち尽くした。すぐに、パラライザーを持った男達が永の視界に映り出す。そして、その中に見知った者がいて、永は大きく目を見張った。

「永……否、TYPE-A。施設に戻れ」
「エイヴァ先生……」

 永担当の医師だった。山のような薬の処方を出しているのがこの男だ。永の能力に兵器としての 価値を見いだしたのも、そして……永を売ったのも、この男である。

「嫌だ!もう僕は人殺しになんかなりたくない……!」
「今までの追っ手も、お前が殺しているんだろう?人殺しになりたくないと言いながら、結局お前は 人を殺しているじゃないか」

 エイヴァ以外、全員が銃口を永に向ける。永は泣きそうな顔をしながらかぶりを振り続けた。

「放っておいてくれれば……放っておいてくれれば僕は何もしないのに!」
「逃げておきながらよく言えるものだ。施設に戻ったら、再教育してやろう……撃て」


「やめてー!!」





 雨が降り出した。震えた息をしながら、永はその場に立ちすくんでいる。
 自分以外誰もいない。
 あるのは、赤。

 永のパジャマの汚い褐色の染みの上に、真新しい赤い染みが付く。手にも、顔にも、足にも同じように。

「どうして……」

 襲い来る頭痛に顔を歪めながらようやく出した声は、絞り出すような呻き。

「どうして、追いかけてくるの……?」

 青い双眸から涙がこぼれる。しかし、拭っている暇はなかった。
 遠くへ。
 もう誰も追ってこないくらいもっと遠くに逃げなければ。
 息を吐くと、走り出す。

 血塗れの手を、また血で塗らして。

FIN.